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介護業界の人手不足問題は日本社会の大きな課題となっています。
高齢化が進む中、介護サービスの需要は増加の一途をたどっていますが、それに見合う人材の確保が追いついていないのが現状です。介護業界への求職者や転職者にとって、自分が従事する職場が人手不足に陥っていないか心配な方も多いのではないでしょうか。
本記事では、介護職の人手不足の実態や原因、その影響、そして職場側(人事側)が取るべき対策について詳しく解説します。
本当に介護職は人手不足なのか
介護職の人手不足については様々な議論がありますが、実際のデータを見ると、その深刻さが浮き彫りになります。ここでは、現在の介護職員数の実態や今後必要とされる人員、そして政府や行政による対策について見ていきましょう。
現在の介護職員数の実態
参考:厚生労働省『第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』
厚生労働省の最新のデータによると、2022年度(令和4年度)の介護職員数は約215万人となっています。年々職員の数は増え続けてはいるものの、2021年から2022年にかけては5千人しか増加していません。
今後の介護業界の需要を考えると、まだまだ職員の数は必要であると言えます。次に、どれくらい不足する見込みなのか解説します。
今後必要な人員
厚生労働省の公開している資料では、2022年時点の介護職員は215万人なのに対して、2040年には272万人の職員が必要であると算出されています。
先述したように、1年で5千人の増加ペースと仮定しても、2040年には約224万人までにしか到達しません。つまり、2040年になると約48万人の人材が足りない計算になります。
これらのデータを踏まえると、多くの介護施設や現場において人手不足が心配されており、介護業界全体において人材確保が課題となっていると言えます。
参考:厚生労働省『第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について』
政府や行政による人材確保の対策
政府や行政は介護職の人員不足を問題視し、人材確保のために様々な対策を講じています。主な取り組みとしては以下のようなものがあります。
・介護に関する入門的研修
都道府県及び市区町村(民間団体への委託も可)が主体となって、介護に関心を持つ介護未経験者に対して研修を実施しています。
・人材育成等に取り組む介護事業者の認証評価制度
職員の人材育成や就労環境等の改善につながる介護事業者の取組について、都道府県が基準に基づく評価を行い、一定の水準を満たした事業者に対して認証を付与する制度です。
・介護現場における多様な働き方導入モデル事業
効率的な事業運営の方法についての実践的な研究を行い、その成果を全国に展開しています。リーダー的介護職員の育成を行うとともに、柔軟な勤務形態を介護事業所にモデル的に導入を進めています。
参考:厚生労働省『介護現場における多様な働き方導入モデル事業』[PDF]
介護職の人手不足の主な原因
介護職の人手不足には、複数の要因が絡み合っています。ここでは、主な原因について詳しく見ていきましょう。
労働環境と精神的負担
介護職は身体的にも精神的にも負担の大きい仕事です。
以下の表は、公益財団法人介護労働安定センターが介護職の退職理由を調査した結果です。
退職理由(複数回答) | 2019年 | 2020年 | 2021年 | 2022年 | 2023年 |
---|---|---|---|---|---|
家族の介護・看護のため | 3.40% | 4.10% | 4.90% | 5.00% | 4.50% |
結婚・妊娠・出産・育児のため | 13.30% | 20.40% | 19.90% | 8.20% | 8.40% |
病気・高齢のため | 3.00% | 3.10% | 3.10% | 3.40% | 3.10% |
定年・雇用契約の満了のため | 3.00% | 3.10% | 3.10% | 3.30% | 3.10% |
家族の転職・転勤、又は事業所の移転のため | 1.70% | 1.40% | 1.70% | 1.60% | 1.70% |
法人や施設・事業所の理念や 運営のあり方に不満があったため |
8.60% | 8.80% | 8.20% | 8.30% | 7.80% |
職場の人間関係に問題があったため | 23.20% | 34.30% | 26.80% | 26.30% | 19.90% |
自分に向かない仕事だったため | 6.60% | 6.80% | 6.70% | 7.10% | 7.60% |
自分の将来の見込みが立たなかったため | 16.20% | 16.40% | 16.50% | 15.80% | 13.20% |
収入が少なかったため | 16.60% | 16.00% | 16.40% | 16.60% | 16.00% |
新しい資格を取ったから | 7.60% | 9.80% | 7.70% | 7.60% | 5.90% |
他に良い仕事・職場があったため | 19.90% | 17.00% | 16.90% | 19.00% | 16.00% |
人員整理・勧奨退職・法人解散・事業不振等のため | 9.70% | 9.60% | 9.80% | 9.90% | 7.60% |
参考:公益財団法人介護労働安定センター『令和5年度 介護労働実態調査結果』
この調査結果では、人間関係の問題による退職が最も多いことがわかります。人間関係の問題は精神的負担に繋がりやすいため、良好な人間関係を構築しやすい職場づくりが求められます。
少子高齢化による若年労働力の減少
日本の少子高齢化は介護業界の人手不足の最大の原因と言えます。
高齢者の増加により介護需要が増大している一方で、若年労働力の減少により介護職の担い手が不足しています。 特に、介護職は若い世代の就職先としての人気が低く、新卒採用が難しいという現状があります。これは、介護職のイメージや労働条件が若者が求める条件と合致していないことが原因と考えられます。
他の業界との賃金差と待遇比較
介護職の賃金は、他の業界と比較して低い水準にあります。
実際の介護職の平均年収は約362.9万円です。
一方で、全産業の平均年収は約458万円万円です。
この調査結果を見ると確かに給与が低いと思われますが、特に介護職では、所有する資格や雇用形態、働き方によって大きく年収が変動します。
夜勤手当や資格手当など、様々な手当が付くことも多いです。就職時は給与が低いと感じても、キャリアアップを果たせば、確実に給与を上げやすい業界とも言えます。
介護業界全体の平均年収を改善することはもちろん重要ですが、給与面が悪くないイメージを浸透させることも、介護業界全体の課題と言えるでしょう。
介護職の人手不足が現場に与える影響
介護職の人手不足は、介護サービスの提供現場に様々な影響を及ぼしています。ここでは、その具体的な影響について見ていきましょう。
サービスの質の低下
人手不足に陥ると、一人の介護職員が担当する利用者の数が増加し、個々の利用者に十分な時間と注意を払うことが難しくなってしまいます。
これは、介護サービスの質の低下につながる可能性があります。 具体的には、以下のような問題が発生する可能性があります。
- 個別ケアの不足:利用者の個別のニーズに対応できない
- コミュニケーション不足:利用者との会話や交流の時間が減少
- 事故リスクの増加:見守りや介助が不十分になることによる転倒などのリスク増加
従業員の過労と健康問題
人手不足が続くと、シフトや勤務時間が増えてしまうため、現場で働く介護職員の心身の負担を増大させます。具体的には以下のような影響があります。
- 長時間労働の常態化:残業や休日出勤の増加
- 身体的疲労の蓄積:休憩時間の不足や休暇取得の困難
- メンタルヘルスの悪化:ストレスの増加や休職
これらの問題は、介護職員の健康を害するだけでなく、離職率の上昇にもつながります。さらなる人手不足を引き起こす悪循環を生み出す可能性すらあります。
介護施設の運営への影響
人手不足は介護施設の運営にも大きな影響を与えます。どんなに良い設備が整っていても、人員が不足してしまうと様々な制限を強いられてしまいます。
- 新規利用者の受け入れ制限:十分なケアを提供できないため、新規利用者を断らざるを得ない
- サービスの縮小:人員不足により、提供するサービスの種類や量を減らさざるを得ない
- 経営の悪化:人材確保のためのコスト増加や、サービス提供の制限による収入減少
これらの問題は、介護施設の持続可能性を脅かし、地域の介護サービス提供体制全体、ひいては介護業界全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
採用側ができる介護職の人手不足の対策
介護職の人手不足に対して、採用側ができる対策はいくつかあります。ここでは、主な対策について詳しく見ていきましょう。
賃金改善と待遇向上
賃金の改善は、介護職の魅力を高め、人材確保につながる重要な対策です。
- 基本給の引き上げ:業界平均を上回る給与水準の設定
- 手当の充実:夜勤手当や資格手当などの拡充
- 賞与の増額:業績に応じた賞与の支給
- 昇給制度:経験や能力に応じた明確な昇給基準の設定
賃金の設定は、介護業界に限らず全産業が抱える問題とも言えますが、介護職員自身が納得する給与額を支給することが求められるでしょう。重労働なのに対して給与が低いと言った不満を減らすことが重要です。
労働環境の整備と負担軽減
昨今の求職者は、賃金以外にも労働環境やワークライフバランスを重視することも増えてきました。労働環境の改善は、職員の定着率向上と新規採用の促進につながります。
- 勤務シフトの柔軟化:個人の生活スタイルに合わせた勤務時間の設定
- 休憩時間の確保:適切な休憩時間の設定と取得の促進
- 業務の効率化:不必要な業務の削減や手順の見直し
- チームケアの推進:職員間の協力体制の強化
夜は働けない主婦や、逆に夜勤専従を希望する求職者など、様々なニーズに対応できるような受け入れ体制を整えることが重要です。
教育・研修制度の強化
継続的な学習と成長の機会を提供することは、職員のモチベーション向上と定着率の改善につながります。
- 新人研修の充実:入職時の丁寧な指導と支援
- 定期的なスキルアップ研修:最新の介護技術や知識の習得機会の提供
- キャリアアップ支援:資格取得のための支援制度の整備
- メンター制度の導入:経験豊富な職員による若手の育成
介護職は特に、資格や専門スキルを求められるシーンが多い職業です。職員のキャリアアップを後押しできるような制度を充実させることも、人材の定着に繋がる重要な要素と言えます。
ICTの導入
ICT(情報通信技術)の活用は、業務効率化と負担軽減に大きく貢献します。厚生労働省も主体となって介護業界のICT化を進めており、ICTの導入事例やガイドラインを公開するなどの取り組みを行っています。
- 介護記録のデジタル化:タブレットやスマートフォンを使用した記録システムの導入
- シフト管理システムの導入:効率的な勤務管理と労働時間の適正化
- オンライン研修の実施:時間や場所の制約を受けない学習機会の提供
ICTに加えて、介護ロボットの導入も進められています。厚生労働省は経済産業省とともに介護ロボットの開発・導入を支援しており、昨今の活動では「介護ロボットの開発・実証・普及のプラットフォーム事業」における「ニーズ・シーズマッチング支援事業」を開始しました。(2023年7月27日)
今後も国が主導となって、介護業界のICTの導入と、介護ロボ導入が促進されていくと考えられます。
まとめ:介護職の人手不足解消に向けて
介護職の人手不足は深刻な問題として注目されています。
しかし、様々な対策を組み合わせることで、徐々に改善させることは可能です。
賃金改善や労働環境の整備、教育・研修制度の強化、ICTの導入など、採用側ができる対策は多岐にわたります。これらの取り組みを総合的に実施することで、介護職の魅力を高め、人材の確保と定着を図ることができるでしょう。
求職者側は、これらの人材確保の取り組みに力を入れている企業へ就職することが重要と言えます。
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